木原敏江『青頭巾』が様子のおかしい怪奇BLだらけで最高だったというネタバレ感想

投稿:2024/11/05

木原敏江『青頭巾』が様子のおかしい怪奇BLだらけで最高だったというネタバレ感想

怪奇BLはいいぞ。木原敏江『青頭巾』(小学館・1998年)の感想です。ネタバレなしの紹介パート、ネタバレありの感想パートに分けてお送りします。

なお、本作についての話はポッドキャスト『ミリしらBL大辞典』でもお送りしています。この記事で書いていない内容も含まれているので、合わせてお楽しみいただければと思います。

『青頭巾』の紹介(ネタバレなし)

本作は、言わずと知れた少女漫画界の大御所・木原敏江による短編集で、「夢の碑:古今東西幻想綺譚」というシリーズの2集目です。私が本作を手に取ることになった経緯は少し変わっていて、端的に言うと「勘違い」でした

というのも、その原因は本作の表題作である「青頭巾」にあります。

「青頭巾」とは、江戸時代の作家・上田秋成『雨月物語』に収録されている作品です。ざっくりと要約すると、ある寺の和尚が自分の愛していた稚児を亡くし、その美しい亡骸が腐るくらいならと自分で食べてしまって修羅になり、 それを通りがかった聖に助けてもらうという話です。

なかなかにとんでもない物語ですが、それを美しい絵柄で名高い木原敏江の絵で読めるのであれば是非と思って購入したところ、実は本作の表題作の「青頭巾」は上田秋成の「青頭巾」の翻案で、 全く違う内容の話だったというオチなわけです。

しかし、残念に思いながらも読んでみるとやはり面白かったうえに、他の収録作も様子のおかしい怪奇BLだらけでとても充実した読後感を味わえたので、この記事で紹介します。

『青頭巾』の感想(ネタバレあり)

「雨月物語」:俺が好きなのは…俺!

さて、まず紹介するのは表題作でもある「雨月物語」です。ただし、前述のとおり、この作品は上田秋成の同名の作品の翻案であって、内容は全く異なるものになっています。

時代は平安末期。平家が栄華を極めていた頃に、高貴な出自でないにもかかわらずあまりの美貌で出世を重ねていた秋篠という男がいました。彼がこの作品の主人公です。

この秋篠という男、とにかく美しすぎて男からも女からもモテまくります。その中でも特に秋篠のことを想っている2人の女性がいました。 一人は秋篠の許嫁の颯子。かねてより秋篠と思いを通わせており、仲睦まじい間柄でした。 もう一人が秋篠の政略結婚の相手の照日。政略結婚でしたが、照日は秋篠にベタ惚れでした。本作は秋篠を中心に颯子・照日の三角関係で話が進みます。

さて、男からも女からもモテまくる秋篠ですが、絶対に一言余計なことを言ってしまうという悪癖がありました。このせいで男からも女からも愛憎を買いまくります。

案の定、秋篠は彼に惚れていた貴族を怒らせてしまい、拉致された上に山中に幽閉されます。それを受けて立ち上がったのが颯子と照日。愛する秋篠を救うために手を組みます。

捜索の末、二人はついに秋篠を発見します。そして二人は「私とコイツどっちが好きなの!?」とラブコメのテンプレのようなことを告げます。 普通のラブコメなら男が優柔不断な態度を取ってボコボコにされるというのがお決まりですが、秋篠はその程度の男ではありません。

「われの愛しているのは…われ自身じゃ」と、心底そう思っていないとできない、ビックリするほど神妙な顔でそう告げます。その回答に颯子と照日はドン引き。その場で二人して秋篠をドスで一突きにして、 自分こそが秋篠と一緒に死ぬのだと狂乱の殺し合いを始めます。

秋篠の亡骸は二人に食い尽くされてしまい、彼の魂は成仏することもできず、真に愛する人に出会うまで美しい鬼となって時のはざまをさまよい続ける…という話です。

なんだか坂口安吾の『桜の森の満開の下』みたいな雰囲気で終わりましたが、「青頭巾」は秋篠が宮中の偉いおじさんから言い寄られる場面が少々あるくらいで、BLかというと全くそんなことはありません。 しかし、以下に続く他の収録作が素晴らしいBL作品だらけだったので、この記事もしばらく続きます。

「水面の月の皇子」:妖怪も認めた正統派BL

続く作品は「水面の月の皇子」です。先の「青頭巾」を読んだ後だったのであまり期待せず読んだのですが、こちらはビックリするくらい正統派のBLでした。

時代は南北朝時代末期。南朝の皇子・紗王は臣下・武緒と共に、南朝の復興を目指して足利軍の追手から逃げ回っていました。はい、主君BLということです

追手が迫り、もはやこれまでかと思ったところ、妖しげな集団に命を救われます。お察しの通り、この人たちが妖怪です。隠す気もなく、河童や狐の姿も見せます。 曰く、姫がかつて武緒に命を救われたことがあり、その時から武緒にベタ惚れであると。

その武緒ですが、ひそかに紗王に想いを寄せていました。そのことに嫉妬した妖怪の姫は、紗王が眠っている間に紗王の気持ちを覗きます。 すると、紗王の心は北朝への復讐に染まっており、武緒に対しては信頼のおける臣下という以上の思いは持っていませんでした。

そのことを告げられた武緒ですが、それで構わないと紗王への忠誠を曲げません。 武緒のまっすぐな想いや、復習に染まった紗王の心中を哀れんだ妖怪は「こりゃ敵わん」と二人のもとを去る…という話です。

主君BL×妖怪ものという今のBLを見てもなかなか見当たらない組み合わせですが、これが木原敏江の美麗な絵と重厚なプロットで表現されていて、 この作品だけでも『青頭巾』を読む価値があると言えます。

「影に愛された男」:耽美な美青年からの激重感情にはご用心

さて、「影に愛された男」ですが、こちらは舞台も雰囲気も打って変わって、ヨーロッパが舞台のゴシックホラーです。

主人公は貧乏ながらも楽しく学生生活を送るティルマンという青年。ある日、彼は富豪ながらも心と体に大きな傷を負ったカウルという同級生と出会います。

出会って早々にカウルから「友達になろう」「君を金銭支援させてくれ」と激重感情をぶつけられるティルマンですが、 カウルが負った深い傷を知って断るに断り切れません。当然、カウルはわざと自分の傷を見せてティルマンに罪悪感を抱かせているわけですが…。

二人はついに二人は一心同体という「血の契約」まで交わしてしまいます。その直後にカウルは事故死。「血の契約」により、ティルマンはカウルからすべての資産を相続して大富豪になります。

しかし、もちろん「血の契約」にもカウルの事故死にも裏はあります。大富豪になったティルマンですが、自分のドッペルゲンガーが現れているという噂を聞きつけます。 同時に自分は体力がだんだん弱ってきて、一日のうち眠っている時間のほうが長くなってしまいます。

はい、乗っ取り完了です。カウルは心も体も美しいティルマンに憧れを越えた激重感情を抱き、彼と一心同体になることを画策して実現させます。

「影に愛された男」は一貫して幽玄な腑に気を醸すゴシックホラー調で、数々ある今のホラーBLと比べても遜色のない作品と言えます。

ということで、勘違いで購入した木原敏江『青頭巾』ですが、主君BL×妖怪ものから激重感情のゴシックホラーBLであったりと、 様子のおかしな怪奇BLだらけで最高だったので、ぜひ皆さんにおすすめしたい作品です。

ミリしらBL大辞典はSpotifyやYouTubeで配信中

ミリしらBL大辞典は、20代の男性2人がBLについて語る毎週土曜0時更新のポッドキャスト番組です。BLの歴史や文化、魅力について語りつつ、漫画や映画のレビュー、LGBTQに絡めた話題も取り上げています。