PEYO『ボーイミーツマリア』ネタバレ感想:俳優でも女優でもなく

投稿:2024/11/21

PEYO『ボーイミーツマリア』ネタバレ感想:俳優でも女優でもなく

俳優でもなく、女優でもなく。PEYO『ボーイミーツマリア』(プランタン出版・2018年)のネタバレ感想です。 ネタバレなしの紹介パート、ネタバレありの感想パートに分けてお送りします。

なお、本作についての話はポッドキャスト『ミリしらBL大辞典』でもお送りしています。この記事で書いていない内容も含まれているので、合わせてお楽しみいただければと思います。

『ボーイミーツマリア』の紹介(ネタバレなし)

誰しも、自分にとってすごく思い入れがある作品というのがあるのではないでしょうか。 マンガであれ、映画であれ、自分の人生の契機となった作品というのは、 いつまで経っても自分の中で色褪せず残り続けるものです。

私にとってそれにあたるのが、本作『ボーイミーツマリア』です。 当時高校生だった私は本作を通じてBLの世界に足を踏み入れ、 やがてBLについてのポッドキャストまで配信するまでになりました。

私事はさておいて、 『ボーイミーツマリア』は2018年にプランタン出版より刊行されました。 作者のPEYO先生は本作で商業BLデビューとなりました。 その後、PEYO先生は別名義で少年漫画の連載を始めますが、 連載半ばで早逝してしまい、本作が最初で最後の完結作となっています。

そんな本作は、演劇と性別が大きなテーマとなっています。 まっすぐな性格でちょっとおバカな高校生が「演劇部のマドンナ」、通称マリアと出会うところから物語が始まります。 しかし、マドンナは実は男の子でした…というまではお決まりの展開ですが、そこに終わらず、むしろ始まりにすぎないのが本作。

まさに「ボーイミーツマリア」。本作は、よく言えばまっすぐな性格、悪く言えば 軽薄で薄っぺらいボーイと、男性ながら女装をして演劇のステージに立つマリアの出会いが 2人に変化をもたらす大きな化学反応が起きる作品です。

なお、本作は性的なシーンのほか、性的暴行、児童虐待に関する描写が含まれています。 下記の感想パートでもそれらへの言及が含まれているので、ご承知ください。

『ボーイミーツマリア』の感想(ネタバレあり)

あらすじ(冒頭)

舞台はとある高校。幼いころからヒーローに憧れていた大河(たいが)は 入学直後、学校中で話題の「演劇部のマドンナ」、通称マリアに出会います。

大河は思わず一目惚れ。愚直でまっすぐな彼はさっそく告白します。 もちろんのこと「マリア」からの反応はなしのつぶて。 それどころか、衝撃的な事実を告げられます。

「マリア」は実は男であると――

しかし、彼は相手が男だろうが大河からすれば関係ありませんでした。 「マリア」が実は有馬優(ありま・ゆう)という名前の男子生徒で、 大河の同級生だと知っても、大河はアタックを続けます。

大河は有馬を追いかけて自らも演劇部に入部します。 演劇部では、有馬は女性役としてダンスを担当していました。 最初は大河を怪訝に扱っていた有馬ですが、 猛烈なアタックにだんだんとほだされ、2人の距離は縮まっていきます。

有馬は大河のために一対一で演技の指導も始めました。 そこで大河は、有馬は女役以上に男役の演技が上手いことなど 有馬についてもだんだんと知っていきます。

有馬の一対一の指導のおかげで大河はメキメキと演技力を上げ、 次の公演では役を持たせられるかもしれないというレベルにまで達しました。

周囲から成長を褒められた大河は「有馬のおかげだ」と言いますが、 周囲は怪訝な反応を見せます。――「え?有馬くんって演技できるの?」

「男子、女子、どっちなの?」

本作の最も大きなテーマは「性別」です。 実は有馬は、幼少期のころ実の親から女の子として生きるよう強制されていました。 フリルがついた「女の子らしい」服を着せられて、かわいい「女の子らしい」おもちゃを与えられて、 ピアノやバレエといった「女の子らしい」習い事をさせられる。

有馬は体の性(セックス)は男性なわけですが、実の親から男性の部分をすべて否定された幼少期を送り、 高校生になった今でも心の性(ジェンダー)がぐちゃぐちゃで、自分が男性なのか女性なのかハッキリ分からないでいました。

この時点でかなり重要なテーマに踏み込んだ作品であることが伺えると思います。 自分と異なる性のジェンダー規範を押し付けられるという点なんかはかなり批評性があるんじゃないでしょうか。

さて、女の子として生きることを実の親に強制された有馬は、周囲の誰からも 自身が男性であることを認めてもらえませんでした。 小学校の担任の教師からは性的暴行を受け、高校の演劇部では腫れ物扱いされ、 そんな中、唯一有馬を男性として認めてくれたのが大河でした。

有馬にとって、男性としての自分を受け入れてくれる大河の存在はまさに「ヒーロー」だったわけです。

ここから、物語は「有馬を男性として受け入れていく」ことに重点を置いて話が進んでいきます。

男性として受け入れること

『ボーイミーツマリア』は主人公・大河の成長を描きつつ、 それ以上に有馬の変化について描かれています。

後半の方では大河の成長と有馬の心境の変化などが同時並行で描かれて、 ぼーっと読んでいると置いて行かれそうになるのですが、 2人の変化の先には「有馬を男性として受け入れていく」という終着点があるわけです。

なので、やがて2人は恋愛関係になるわけですが、 その関係も有馬のほうがリードしていきます(男性がリードするというのも、 ジェンダー規範ではあるのでしょうが…)。本作では2人の性行為は描かれないのですが、 どちらが攻めか受けかというのをあえて明白にしない良い選択だと感じました。

一定の人気が出たBL作品に対して「BLを超えた」とか「BLである以上に普遍的な愛が~」などという と呼ぶ向きがあり、本作でもそのような声がちょくちょく聞かれます。 そもそもそういった言説がBLを軽んじている点があるのはもちろんなんですが、 本作は紛れもなくBLだからこそ意味がある作品と言えるでしょう。

ただし、紹介パートでも書いた通り、本作は直接的な性的暴行や児童虐待などの描写が多々含まれているので、 読まれる際はその点に注意していただければと思います。

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