「花吐き病」とは?元ネタから二次創作、世界への広まりまでを解説
投稿:2024/12/15
PixivやX (Twitter) などでBLの二次創作を楽しんでいる方は、一度は「花吐き病」を見かけたことがあるのではないでしょうか。
片想いをすると花を吐いてしまうというこの病気。設定自体はよく知られていますが、どのように誕生したのか、なぜ二次創作で用いられるようになったのか気になったことはありませんか?
この記事では、「花吐き病」の誕生から二次創作での利用、そして世界へ拡散されるまで、どのような経緯があったのか、そしてどのような類似作品があるのかについて解説します。
花吐き病とは
花吐き病とは、松田奈緒子先生による漫画作品『花吐き乙女』に登場する架空の病気です。片想いをこじらせて苦しくなると、突然花を吐いてしまうという病気で、吐かれた花に振れると感染するという設定です。作中での正式名称は「嘔吐中枢花被性疾患」と言います。
『花吐き乙女』は、講談社のレディコミ雑誌『Kiss』に2008年から2010年まで連載された作品で、講談社ワイドKCから全3巻が発売されています。松田奈緒子先生と言えばテレビドラマ化もした『重版出来!』で知られていますが、本作に関しては自ら「さっぱり売れませんでしたけど」というツイートをしています。
『花吐き乙女』はギャグも交えられたコミカルな作品で、作中でも花吐き病は単に気持ち悪いものとして扱われていますが、二次創作で用いられるなかで、様々な設定が追加されたり、耽美な雰囲気づくりに転用されたりしています。
二次創作での花吐き病の広まり
現在、花吐き病といえば原作の『花吐き乙女』ではなく、もっぱら二次創作の文脈で語られます。それでは、花吐き病はいつから二次創作で用いられていたのでしょうか?
2024年12月現在、Pixivで確認できる限り、花吐き病が初めて二次創作に用いられたのは2011年でした。2011年5月7日に投稿された『ハナハキヤマイ』という作品で、アニメ『タイガーアンドバニー』のBL二次創作小説です。現在の二次創作で見られる新たな設定はなく、『花吐き乙女』そのままの設定で花吐き病が用いられています。
『花吐き乙女』完結からすぐの2011年に初めて二次創作で用いられた花吐き病ですが、しばらくの間、花吐き病を扱った作品は低調でした。Pixivに投稿された作品の投稿日時をもとに調べてみると、2011年には2作品、2012年には3作品、2013年には10作品と決して多くないことが伺えます。
それが変化したのが2014年です。2014年に花吐き病を紹介する投稿がツイッターで拡散され、Pixivへの投稿作品数も241作品に急増します。そして、同時期に花吐き病は日本を越え世界にも拡散されるようになりました。
世界への広まり
2014年の日本での拡散に合わせ、花吐き病は世界に伝播しました(こう書くとめちゃくちゃヤバい伝染病が広まってるみたいな感じになりますね…)
英語版Pixivとも呼ばれるArchive of Our Own(頭文字からAO3と呼ばれる)に存在する最古の花吐き病作品は2014年10月5日に投稿された “Unrequited” という作品です。この作品はBTSのいわゆるナマモノの作品であり、メンバーのひとりであるJinが花吐き病に罹患するというストーリーになっています。
この作品が投稿されたのは、ちょうど日本で花吐き病が拡散された時期と被っており、ツイッターを介して英語圏など世界にも花吐き病が広まったことが伺えます。
ここで思い出されるのが、英語圏で誕生し、やがて日本に輸入されたオメガバースです。オメガバースは2010年にAO3で誕生し、2013年から2014年頃に日本の二次創作でも用いられるようになりました。真逆の経路をたどっている両者ですが、どちらも誕生から伝播までおよそ3年かかっているのが興味深い点です。
ただし、オメガバースは2010年の誕生直後から英語圏では絶大な人気を誇った一方で、花吐き病は上記のように2014年に爆発的に作品数が増加するまではあまり知られていなかった点は考慮が必要です。
AO3では花吐き病が独自の発展を遂げていて、病気の進行と共に身体から花が生えてくるという設定が多く見受けられるのが特徴的でした。移った先で独自の進化を遂げるというの、なんだか生き物みたいで面白いですね。
花吐き病に類似した作品
日本や世界の二次創作で用いられている花吐き病は上記の通り『花吐き乙女』に由来するものですが、花を吐くという設定自体はそれよりも前から用いられてきました。
日本の作品でも、ゲーム『ダ・カーポ』など花を吐く描写がある作品は多数ありますが、ここでは日本から離れた海外の類似作品について紹介していきます。
ボリス・ヴィアン『日々の泡』
フランスの作家ボリス・ヴィアンによる小説で、『うたかたの日々』という題名で日本でもよく知られている作品です。パリに住む若者たちを描いた青春小説で、主人公の恋人の肺の中に睡蓮のつぼみができる病気に罹患するという描写があります。
花を吐くのではなく、体の中に花のつぼみができるという点では違いがありますが、花に関する病気ということで、かなり花吐き病に近い描写がある作品と言えます。
シャルル・ペロー『宝石姫』
『長靴をはいた猫』などが収録された「ペロー童話」として知られるシャルル・ペローの作品の中に『宝石姫』という童話があります。貧乏な少女が老婆に手助けをすると、実はその老婆は魔女で、お礼に少女の口から宝石と薔薇の花が出るようにしてあげて…という作品です。
貧乏だけど心優しい主人公が親切にした相手が実は凄い人で…というのは洋の東西を問わず見られる構図ですね。この作品は少女の口から宝石と共に薔薇の花が吐かれますが、これは病気などではなく、むしろ良いものとして描かれているのが花吐き病とは異なる点です。
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