佐倉リコ『好きなら脱がせて。』ネタバレ感想:ワンコ系攻めと…Femboy系受け?
投稿:2024/11/01
ワンコ系攻めと…Femboy系受け?佐倉リコ『好きなら脱がせて。』(リブレ・2024年)の感想です。ネタバレなしの紹介パート、ネタバレありの感想パートに分けてお送りします。
なお、本作についての話はポッドキャスト『ミリしらBL大辞典』でもお送りしています。この記事で書いていない内容も含まれているので、合わせてお楽しみいただければと思います。
『好きなら脱がせて。』の紹介(ネタバレなし)
本作は2024年9月にリブレのビーボーイコミックスDXより刊行されました。単行本発売前からSNS上でかなり話題になっており、目にする機会も多かったのと、女装というテーマに興味を惹かれ入手しました。
佐倉リコ先生は『おおかみくんは怖くない。』シリーズや『一ノ瀬くんはいつも言いなり。』シリーズなどで知られています。前者はケモ系(基本的には人間にケモ耳や尻尾が生えたものですが、動物にもなります)で、後者は主従ものです。どちらのシリーズにも共通しているのが、可愛げで甘々な空気感です。
もちろんお話の過程にはシリアスな場面などもありますが、最終的にはラブラブで甘々になることが多い印象で、本作も例にもれず可愛げで甘々な空気感が読者に届けられます。
なお、本作はめちゃくちゃエッチなシーンが多分に含まれています。下記の感想パートでも性的な表現が頻発するので、ご承知ください。
『好きなら脱がせて。』の感想(ネタバレあり)
「女子になりたいわけでもない」
高校の生徒会副会長をしている貴音は絵にかいたような優等生。しかし、そんな彼には誰にも言えない秘密がありました。それは、幼馴染の晃佑に抱かれる妄想をしながら、女装をして自分を慰めること。
『好きなら脱がせて。』でまず面白いと思ったのが、貴音が女装をする理由です。
貴音自身は女装について「女子になりたいわけでもない」「ただ、こういう服を着た方が想像しやすかったから」とモノローグで語っています。女性への変身願望から女装をしているのではなく、あくまで自分の想像を補強するための道具として女装をしているという点が珍しいと感じました。
実際、貴音の女装というのは女性ものの下着こそ身に着けていますが、あとはセーラー服をそのまま着ただけで、ウィッグを被るとか、化粧をするといったことはしていません。
ここで思い出したのが、「男の娘」と「Femboy(フェムボーイ)」です。これはどちらも女装などして女の子のようにみえる男性のことを指すスラングで、前者が日本で、後者が欧米でよく用いられています。
大まかには同じものを指す2つの単語なのですが、やはり若干の定義の違いがあります。というのは、前者の「男の娘」は外見を重視しており、見た目が女の子のように見えるかを判断の基準とする傾向にあります。しかし、後者の「Femboy(フェムボーイ)」はフェミニン(女性的)な要素があれば、必ずしも外見にはこだわらない傾向にあります。
実際に「Femboy(フェムボーイ)」を称している人たちの中にも、必ずしも女性への変身願望があるわけではなく、あくまで自分のフェミニンな要素を補強するために女装をしているという人たちが見られます。こうした点から、本作を読んでいて私は貴音の女装がすごく「Femboy(フェムボーイ)」的だなと感じました。
BLあるあるは現実ないない?
さて、そうして女装をしながら来る日も自分を慰める貴音ですが、ある日、その最中に寝落ちしてしまい、たまたま自分のもとを訪れた晃佑に見られてしまいます。密かに貴音のことを想っていた晃佑は驚きつつも、その様に興奮を覚え、寝ている貴音のそれを擦って果てさせます。
作品とは全く関係ないですが、自慰行為中に寝落ちしたり、寝ている最中にエッチなことされるけど起きないのとかってBL漫画ではあるあるな展開ですけど、現実的に考えると中々ありえない状況ですよね。
以前、BL好きとして知られるVTuberの四季凪アキラさんが「BLあるあるなシチュエーション」に突っ込みを入れる動画を投稿していて、その中で「寝ている間にエッチなちょっかいをかけるけど、実は相手が起きてて倍返しされる」というあるあるに「仮に寝ててもエッチなことされたら起きるだろ」と突っ込んでいたのを思い出しました。
もちろん、フィクションにこういうことを大真面目に突っ込んでも詮無いことで、上記のような描写も舞台装置としてよく機能していると思います。
「好きなら脱がせて」
本題に戻りまして、後日、貴音と部屋で二人きりになった晃佑は、貴音の秘密を知ってしまったことを伝えます。貴音は驚愕し、不快なものを見せたと晃佑に謝罪しますが、晃佑が求めたのは謝罪ではなく、再び貴音の女装姿を見ることでした。
この後はこれでもかとコスプレでの行為が続きます。セーラー服の次の女装が、乳首がもろ出しになっているチャイナドレスだったのには思わず唸りました。シースルーのラグジュアリーやメイド服などありとあらゆる女装をします。
行為を深めるにつれて、2人の関係も以前とは異なるものになっていきます。実はかねてより密かに貴音に好意を寄せていた晃佑。まさに両片思いの2人ですが、ひょんなすれ違いから貴音は女装も、今の関係もやめる決意をします。しかし、そのまま終わらせず、ワンコ系攻めとしての気概を見せるのが晃佑。すぐに互いの誤解を解き、2人は互いの気持ちを交わします。
ここで、『好きなら脱がせて。』というタイトルもとても綺麗に回収されます。あくまで「女装をしている貴音」のことが好きなのではなく、「貴音」自身のことが好きなのであると。互いの気持ちを確かめるための儀式として、晃佑は貴音が着ているセーラー服を脱がせ、これによって2人は真に心を交わし合います。
2人の関係を取り持っていた女装が、最後には2人が気持ちを交わすために取り払うべき装置として描かれるのは巧みでした。
『好きなら脱がせて。』は、女装∧幼馴染∧学生という、佐倉リコ先生の趣味をふんだんに詰め込んだ作品とのことですが、それらの要素が上手く調和しつつ、ふんだんにエッチな描写も盛り込まれ、私は充実した読後感を味わうことができました。
相手が寝ている最中にエッチなことをするなど、多少Dub-Conな描写はありますが、女装モノがお好きな方にはぜひともおすすめな作品です。
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