BLマンガの原点・竹宮惠子『サンルームにて』を読み返す

投稿:2024/11/10

BLマンガの原点・竹宮惠子『サンルームにて』を読み返す

竹宮惠子『サンルームにて』(小学館・1970年)の感想です。ネタバレなしの紹介パート、ネタバレありの感想パートに分けてお送りします。

なお、本作についての話はポッドキャスト『ミリしらBL大辞典』でもお送りしています。この記事で書いていない内容も含まれているので、合わせてお楽しみいただければと思います。

『サンルームにて』の紹介(ネタバレなし)

ドラマ、アニメなど様々なメディアに展開しているBLジャンルですが、古くから根強く人気を持っているのがBLマンガです。 そんなBLマンガには、実は原点と呼ばれる作品があります。それが今回紹介する竹宮惠子『サンルームにて』です。

本作は『風と木の詩』『地球へ…』などで知られる竹宮惠子が、キャリアの初期に手掛けた作品で、 『風と木の詩』などの少年愛作品に繋がるきっかけとなった記念碑的な作品です。

いちおう、男性同性愛を描いたマンガというのは本作以前にも、水野英子『ファイヤー!』など複数あるのですが、 そうした後世への繋がりなどを踏まえて、本作がBLマンガの原点とされています。

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さて、『サンルームにて』が描かれることになった背景というのは本作のウィキペディア記事に詳しいです。 なぜなら私が書いたので。というのは置いておいて、いちおう日本語版ウィキペディアの「良質な記事」に選ばれているので、品質は保証できます。

ざっくりまとめると、竹宮惠子はかねてよりヘルマン・ヘッセや稲垣足穂の影響を受けて少年愛作品を描きたいと思っており、 ちょうど読み切りの枠を貰った時に編集担当の許可も得ずゲリラ的に描いたという流れです。

そうして世に出された世界初のBLマンガですが、当時は少女漫画の主人公に少年を置くことすら珍しく、ましてや同性愛なんて…という世の中。 竹宮自身も好反応は得られないだろうと考えていたそうですが、予想とは裏腹に読者からは絶賛の嵐

竹宮は本作での好反応をもとに、後に『風と木の詩』といった歴史に名を残すBL作品を描くことになります。 そんな歴史の転換点とも言える本作について、この記事で紹介していこうと思います。

『サンルームにて』の感想(ネタバレあり)

舞台は19世紀頃のヨーロッパ。ロマ民族の少年・セルジュが本作の主人公です。当時のヨーロッパではロマ民族は差別の対象になっており、 セルジュも例外ではありませんでした。そのため学校では虐められて友達もおらず、空き家の豪邸に忍び込んで野良猫と遊びのが日々の楽しみでした。

ちなみに、『風と木の詩』の主人公もセルジュという名前のロマ民族の少年です。別人物ではあるのですが、見た目も同じように描かれているので、 本作が『風と木の詩』への布石となったことがありありとうかがえます。

さて、本作のセルジュですが、いつものように空き家の豪邸に忍び込み、特に気に入っていたサンルームに入ったところ、ある美しい兄妹に出会います。 兄の名はエトアール、妹の名はエンジェル。富豪の子どもで、セルジュが根城にしていた豪邸に引っ越してきたのでした。

彼ら兄妹からしてみると、自分たちの新居に得体のしれない少年が忍び込んできたというとんでもない状況なのですが、 彼らはセルジュのことをいたく気に入り、いつでも家に来てもいいと告げます。

ここから、セルジュを巡って兄妹であるエトアールとエンジェルが取り合いをするという三角関係が始まります。 当然、重きが置かれているのはセルジュとエトアールの関係で、エンジェルは当て馬のような役割を演じることになります。

だんだんと深まるセルジュとエトアールの関係がエンジェルの視点を通して描かれる場面もあり、 少年同士の性愛を覗き見る少女という、BL作品の受容をメタ化したような構造が作られています。 こうした現在にも通じる構造があることも、本作がBLマンガの原点と呼ばれている一因にも思えます。

さて、セルジュとエトアールはもはや友達とは呼べないほど関係を深めていきますが、実はエトアールは体が弱く、あるとき肺炎に罹ってしまいます。 それに対してエトアールとエンジェルの両親は、ロマ民族なんかと遊んでいるからだと言ってセルジュと会うことを禁じます。

セルジュとエトアールは何度も会おうとしますが、そのたびに見つかり、引き離され、より一層出会うことが難しくなります。 一方でエトアールの肺炎は一向に良くならず、もはや助からないかもしれないという段階にまで達しました。

そして、ある日、両親の目を盗んでセルジュとエトアールは、ふたりが初めて出会ったサンルームで再会します。 エトアールはセルジュに誕生日プレゼントとして綺麗なナイフを贈ります。 ふたりはキスを交わし、エトアールはそのままセルジュに贈ったナイフで自らの体を貫きます。 そのまま、セルジュはエトアールの亡骸に寄り添いながら、物語は幕を閉じます。はい、死別エンドです

ということで、BLマンガの原点となった『サンルームにて』は男男女の三角関係な上に死別エンドという、 現在のBL作品と比べても遜色のない凄まじいマンガとなっています。BLの歴史を味わいたい方だけではなく、死別エンドなど闇のBLがお好きな方にもおすすめできる作品です。

半世紀以上前の作品かつ、竹宮惠子のキャリア初期の作品ということもあって、絵柄や表現技法には時代を感じさせられる点もありますが、 ストーリーテリングはやはり彼女の技が唸る作品となっています。ebookjapanなど電子書籍で読むことができるので、気になった方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

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